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”速過ぎる”メトロノームの指定速度をどのように解釈すればいいのか

私の自由研究:タイトル
『偉大な作曲家が楽譜に記載した”速過ぎる”メトロノームの指定速度をどのように解釈すればいいのか』

前回の記事はこちら

偉大な作曲家が書き記した曲想に合わない、もしくは演奏不可能な”速過ぎる”メトロノームの指定速度をどのように解釈すればよいのか

前回、おふたりのピアニストの意見を引用しましたが、
基本的に記載された通り演奏すべきという考えかたと、シングルビート/ダブルビートの可能性を考え臨機応変に演奏すべきという考えかた
専門家のかたたちでさえも見解が分かれています。

考えても答えが見つからないのであれば気にする必要はない?
ピアニストの演奏も決して一様ではないですから、演奏者の好みに委ねられているのかもしれませんね。

ただ、作曲家の指示や意図を無視して勝手に演奏して良いはずがありません。
作品に相応しい適切なテンポを考えて、根拠を持って弾く事も大切だと思います。

それでは速度標語/メトロノームの指定速度をどのように見たらよいか。
個人的な見解になりますが、まずは作曲された時代で大きく分けたら良いのではないかと考えています。

1、バロック、古典派(メトロノーム登場以前)
2、後期古典派、前期ロマン派(メトロノーム登場直後)
3、後期ロマン派以降(メトロノームが定着後)

1、バロック古典派(メトロノーム登場以前)具体的に1815年以前に書かれた作品はメトロノームの指定が無いため、速度標語に頼らなければいけませんね。
注意が必要なのはこの時期はメトロノームがまだ登場していないという事
つまり今日常識とされている速度標語に該当する[適切な速さ」も存在しなかったと言えます。
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Lento(レント)ゆるやかに[50~56]
Moderato(モデラート)控えめなスピードで[76~96]
Allegro(アレグロ)快速に[120~152]
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ではバロック、古典期はどのように演奏されていたのか。
CPEバッハ(次男バッハ)が書いた『正しいクラヴィーア奏法』に下記のよう記載があります。
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演奏家はやはり、自分自身そのアフェクト(力強いとか、楽しいといった感情)のなかに浸らなければならない。
あるアフェクトを静めては他のアフェクトを呼び起こす。したがって、絶えずその感情を変えるのである。
(中略)
多くのアフェクトを次から次へと、呼び起こしては静めるためには、テンポと拍子はしょっちゅう変更しなければならない。
したがってここでの拍子記号は、むしろ記譜法に習慣にしたがって書かれているだけであって、奏者はこれに縛られるものではない。

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主にイタリア語で書かれた速度標語を意識しつつ、曲想によっても変化を付けるべきと考えられていたよう。
バロック、古典期の作品は速度標語に該当する[適切な速さ」で弾くよりも、アダージョなら『ゆったりと心地よく』、アレグロなら『快活さ』を表現すればおのずと正しいテンポで演奏できるということなのかもしれません。


2.後期古典派、前期ロマン派(メトロノーム登場直後)
偉大な作曲家CPEバッハの金言を得て?だいぶ自由に演奏されたようで、フンメル『ピアノ奏法のための詳しい理論的・実践的手引き』によると
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(アレグロと書かれた作品において)少し歌わせる箇所や心地よい中間部分で各小節のテンポをゆるめる時には、遅くしたことが悟られないように心掛け、アダージオにまでテンポを落としてはいけない。
テンボをゆるめる箇所と前に進める箇所との幅が、主要なテンポから飛び出してはならないのである

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と書かれています。そして下記の通り苦言を呈しています。
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これまでは作曲家が音楽用語をせっかく慎重に選んでも、演奏するテンポが速すぎたり眠くなるほど遅すぎたりしたために、作品の効果が損なわれることがしばしばであった。
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『ゆったりと心地よく』と言っても、
暖炉の前でウトウトと居眠りをしてしまうような心地よさなのか
早朝、春の風にあたりながら散歩する心地よさなのか…
[速い][遅い]という言葉も非常に曖昧で、ひとそれぞれ感覚が違いますからね。
そこで登場したのか速さの試金石となるメトロノームです。

ただ、残念ながらメトロノームの性能や作曲家が記載した値に疑問を抱かざるを得ない状況
…その問題を解決する手掛かりがコチラ

DSC_0229.jpg

これはメトロノームを制作したメルツェルが作成した表です。
ここから読み取れるのは[遅い][普通][速い]と三つの速さに分けられていて、注目すべきは示す値ではなく、速度記号に選ばれた音符で区分されている点
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[4/4拍子、2/2拍子、2/4拍子の場合]
8分音符=遅い
4分音符=普通
2分音符=速い

[3/4拍子の場合]
8分音符=遅い
4分音符=普通
符点2分音符=速い

[6/8拍子、9/8拍子、12/8拍子の場合]
8分音符=遅い
符点4分音符=普通
符点2分音符速い
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記載された数値は値が小さければ[遅い]、大きければ[速い]という目安と考えれば、(前回の記事で例に挙げた)ベートーヴェンが記した[2分音符=224]という有り得ない値も…
[2分音符]=『速く』
[テンポ=224]=『速く』
『速く』のなかの『速く』、、つまり爆速で弾いて欲しいというベートーヴェンの強い意志が読み取れます!



ピアノソナタ第29番「ハンマークラヴィーア」第4楽章Largoに書かれた(メルツェルの表には存在しない)4/4拍子 [16分音符=76]のテンポも、
[16分音符]=『非常に遅く』
[テンポ=76]=『普通』
『非常に遅く』のなかの『普通』と解釈できそうですね。※現在一般的な演奏は速すぎると思う。


これはベートーヴェンだけでなく、たとえばショパン『マズルカ作品7』

DSC_0230.jpg

DSC_0231.jpg

作品7-1はVivace[符点2分音符=50]と記載があり、
作品7-2はVivo ma non troppo[4分音符=160]と記載されています。
理屈上では2番のほうが速いことになりますが、メルツェルの表に照らし合わせると(符点2分音符で書かれた)1番のほうが速いと解釈することも出来そうですね。


最後に…速度標語/メトロノームの指定速度を調べたのは、現在練習中のショパン『ワルツ第9番』の楽譜に
[Lento 4分音符=136]と記載されていて、速度標語が「[Lento]なのに[4分音符=136]は速すぎない?!」と疑問に感じたから。
先生に相談したところ、「メトロノームの指定速度はあまり気にしなくて良い」との事でしたが、それでは納得できないのが私です
(;・∀・)

上記調査結果を踏まえて(速度記号の音符が)4分音符で書かれているので、ある程度(普通くらいの)テンポで弾いたほうが良いのかもと一旦結論付けましたが…原典版には速度標語もメトロノーム指示もない事が判明しました
※校訂したフォンタナさんが勝手に書き加えた??
こういうことがありますので、楽譜選びにも注意が必要ですね

まぁ、ピアノスキル的にこれ以上テンポアップするのは難しいので[Lento]一択なんですけれど
(;´Д`)

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参考文献
カール・フィリップ・エマニュエル・バッハ著『正しいクラヴィーア奏法』 全音楽譜出版社
フンメル著(ジェフリー・ゴヴィエ解説)『フンメルのピアノ奏法』 シンフォニア
ベートーヴェン ピアノソナタ下巻 ヘンレ版
ショパン マズルカ集 エキエル版


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コメント

ワルツ9番は110〜120くらいが一般的な気がします。焦らず優雅にレントの雰囲気で弾きこなすかと。

Re: タイトルなし

名無しさん、こんにちは
コメントありがとうございまず!

>ワルツ9番は110〜120くらいが一般的
教えていただきありがとうございます。
皆さんレントよりは速めか…
私の場合13連符の箇所でもたつくので、もう少し遅くないとバランスが悪いかも。
(;´Д`)

『焦らず、優雅に』
その気持で演奏したいと思います♪

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Re: No title

鍵コメさん(Gariさん)、こんにちは
コメント&レアチャレご参加、ありがとうございます!

早い段階でのご連絡、大変助かります!
お送りいただきました動画の確認が取れましたのご報告させていただきます。

作曲家や作品もさることながら、雰囲気的にもあまり聴いたことのない不思議な魅力がありますね。
演奏も爽やかで素敵でした♪ありがとうございます

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プロフィール

かつさん

Author:かつさん
小学校から高校までの約10年間ピアノを習い続けましたが

ハノン+ソナチネ+チェルニー30番+インヴェイションしかたどり着けずorz..

20年だった今ではバイエルすら満足に弾くことができません。

もはや、逆に奇跡!!!!

※リンクについて

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